第17話:国境を越えた電気通信利用役務提供に係る消費税_vol.2

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第17話:国境を越えた電気通信利用役務提供に係る消費税_vol.2

「ところで、先ほどの話と関係あるかどうかわからないのですが、うちからUS本社へ毎月クラウド利用料を支払っているのですが、これも消費税は影響しますか?」
今日、リノはUS系のソフトウェア企業に月次のBook reviewに来ている。午前中に消費者向けの「国境を越えた電気通信利用役務提供取引」に係る消費税の取扱いについて、管理部マネージャーの川北さんへ詳しく説明したばかりだ。川北さんは非常に勉強熱心で常にインターネットなどで税制改正等の情報を仕入れて自分なりに勉強している。

「結論から申し上げると、御社の場合、US本社へ支払うクラウド利用料は消費税の課税対象取引ですが、何も処理する必要はありません。」とリノは言った。
「えっ、ごめんなさい。ちょっとよくわからないです・・・。」川北さんは困惑した表情をした。
「そうですよね、わかりにくいのでちゃんと説明しますね。」リノは続ける。
「US本社から請求されるクラウド利用料ですが、このシステムはグローバルでつながっていますので、消費税法上、「国境を越えた電気通信利用役務提供」に該当することになり、消費税の課税取引になります。すなわち、毎月本社へ支払っている500ドルは課税対象ということになります。」
「あの~、ということは消費税を上乗せした550ドルを支払わなくてはいけないということになりますか?現時点では500ドルしか支払っていませんが・・・。」川北さんは口をはさんだ。
「ちょっとややこしい話になってしまうのですが、クロスボーダーの役務提供に係る消費税の取り扱いを考えるときに、事業者向けの取引なのか、消費者向けの取引なのか分けて考えることになります。今回の取引の場合、御社とUS本社の間での取引ですので、事業者向けの取引ということになり、「リバースチャージ方式」で課税されることになります。「リバースチャージ方式」は、本社が日本の税務署に申告するのではなく、御社が本社の代わりに申告することになるんです。つまり、御社は自分の消費税の他に本社から預かった消費税を合算して申告することになるのですが、課税売上割合が95%以上の事業者については、当分の間この取引がなかったものとされますので、結果として御社は従来どおり自分の消費税だけ申告して、本社分の取引については何もしなくていいことになっているんです。なんとなくご理解いただけましたでしょうか?」リノは川北さんに聞いてみた。
「なんとなくわかったようなわからないような・・・。」川北さんはまだしっくりきていないようだ。
「御社の場合、課税売上割合が95%以上ですので、課税仕入は全額控除されますよね。すなわち、本社分の課税売上に係る消費税と御社分の課税仕入に係る消費税が同額になりますので、結果として効果が相殺されることになり、消費税の申告に影響しないことになります。もし、御社が医療業とか不動産業とかで、課税売上割合が95%未満の事業者だったら、課税仕入について課税売上割合に応じた分しか税額控除をとれませんので、「リバースチャージ方式」の影響をもろに受けることになります。」リノは詳しく説明した。
「なるほど。少しわかったような気がします。いずれにしてもUS本社への支払いは従来どおりで、消費税の申告には影響しないという理解でいいですよね。」川北さんは自分自身納得するように何度もうなずいた。
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発行者:坂下国際税理士法人