第12話:出国後に支給した給与の源泉_vol.1

国際税務の最前線を紹介する
「Rino's Tax Diary」

第12話:出国後に支給した給与の源泉_vol.1

「御社の賞与の支給対象期間はいつですか?」リノは経理課長の篠山さんへ聞いた。
「1~6月の期間に対する賞与はその年の7月、7~12月の期間に対する賞与は翌年1月に支払われますよ。」篠山さんはすぐに答えた。
今日は1月20日。打合せのため、フランス系の通信企業のクライアントのオフィスにお邪魔している。この会社は代表者をはじめ常に何人かの外国人(EXPAT)が赴任している。外国人へ支給する給与については源泉税の問題がついてまわる。
「リュボワさんはこの前まで日本にいらっしゃいましたよね?フランスへ戻られたのですか?」リノは聞いた。
「ええ。リュボワは12月末で急遽フランスへ戻ってしまったのです。昨年赴任してきたばかりで、あと2年はこちらへ入る予定だったのですが、本社の意向で急に帰されたみたいです。まあ、うちの会社じゃよくあることなんですけどね。せっかくこっちの仕事に慣れてきたところだったのに・・・。」篠山さんはあきらめ顔だ。
「そうそう、うち今週末にやっと賞与が出るんですよ。うちの会社は12月じゃなくて1月の支給だから、クリスマスや年末年始のセールで買い物できないのが難点なんですけどね。」篠山さんは急に思い出したようで、嬉しそうな表情になった。
「賞与ですか。いいですね。自営業だと賞与は出ないので寂しいですよ。」リノはそう言った後に、
「ところで、賞与はリュボワさんとかにも出るんですか?」と聞いた。
「ええ。出ると思いますよ。彼もちゃんと日本で働いていましたからね。私どもと同じ日に支給されると思いますが。」
「そのリュボワさんの賞与についてですが、日本で非居住者に対する賞与と言うことで20.42%課税されるのですけど、このあたり認識されていますか?」
「えっ、納税が発生するんですか?だって本人はすでにフランスに帰ってしまっているんですよ。」篠山さんは訳が分からないという顔をした。
「ええ。確かにすでに本国へ帰っているかもしれませんが、今回の賞与の支給対象期間は昨年の7月~12月ですよね。ということはその期間はリュボワさんは日本で働いていたので、支給が今年になったとしてもそれは国内源泉所得になってしまい、日本で源泉する必要があるんですよ。おまけに支給時において非居住者ですから、非居住者に対する賞与の支給と言うことで20.42%の源泉が必要になるということなんです。」
「ふ~む、そうなんですか・・・。出国してもしばらく税金はついてまわりますね。でもよかった、まだ賞与は支給されていないので間に合いそうです。今日お会いしていなかったらすっかり源泉もれするところでしたよ。EXPATの賞与って私たちの賞与と違ってすごい高いから、20.42%の源泉もれだったら大変なことになっていましたよ。すぐに人事総務部へ連絡してリュボワの源泉をとるようにお願いしておきます。」篠山さんはそう言った。
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